子供は3歳までに親に全ての恩返しをすると聞いたことがある。それくらい、3歳までの子どもは可愛いということだ。確かに私もそう思う。
だけど可愛いのと同じくらい、世話も焼ける。ご飯を食べれば食べこぼすし、いたずらもするし、何度もオムツを替えてやらねばならない。夜は夜で夜泣きもするし、睡眠時間が思うように取れなくなるのは仕方ないにしても、同じ布団で寝ているので、寝ている間に何度も蹴飛ばされるのは勘弁してほしいと思う。
そんなある日、自宅で1歳になったばかりの息子と遊んでいると、どうしようもなく睡魔が襲ってきた。耐えきれずに床に横になって寝ていると…遠くから除夜の鐘のような音が聞こえる。あれ?今日は大晦日だったかしら?それにしてもやけに音が近くて大きいような…そこでハッと目覚めて気づいた。ゴーンゴーンという音は、私達夫婦の結婚祝いに頂いたゴールドの置時計を息子がガラステーブルに思い切り振りおろして打ち付けている音だったのだ。しかも楽しそうに笑いながら、何度も何度も振り下ろしている。床から見たその光景はまるで巨人が捕まえた人間を建物に叩きつけているようにも見えなくない。慌てて止めたものの時すでに遅し、ガラステーブルは欠けてしまっていたのだった…。
結局ガラステーブルも置時計ももう使える状態ではなくなってしまった。きっと夫に知られたら怒られるだろうと思うと気が重い。「仕方ないでしょ?世界は残酷なんだから」という声がどこかから聞こえたような気がして、私は重いため息をついた。